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テスラコイル設計学 ~1次コイル

 テスラコイルを設計するときに悩む要素は多いと思います。

どうしたら放電が伸ばせるのか。逆に、どうすればいい塩梅に調節できるのか。

ここらへんは電磁気学、高周波伝送分野の知識と設計ノウハウが要る部分なので、だれでもわかるように完結にまとめてみようと思います。個人の研究&実験結果の範囲ですが、参考までにどうぞ。

 

 

1次コイルの役割

 1次コイルは、テスラコイルにおいては電源のエネルギーを2次コイルに伝達する役目を持ちます。

テスラコイルの1次コイル近傍はまさに変圧器と同じ原理でエネルギーを伝達しています。ファラデーの電磁誘導の法則ですね。

1次コイルに電流の変化が生じると、その変化量に従った誘導起電力が2次コイルに生じます。

1次コイルに正弦波交流電流を流すと1次コイル中にはその交流電流の大きさに比例する交番磁界が作られます。

交番磁界は2次コイル中をつらぬき、その交番磁界の変化量に応じた誘導起電力が2次コイルに発生するのです。

 

テスラコイルの昇圧原理

 実は、以前記事でも解説した通りテスラコイルの昇圧の原理は変圧器としての特性はさほど重要ではありません。軽く目を通しておくと今後の話が分かりやすいかもしれません。

 

kamomesan.hatenablog.jp

 

テスラコイルが数百kVを超える電圧を作り出すには、伝送路としてのVSWRが大きく関わります。

2次コイルは開放端な高周波伝送路であり、単純な分布定数回路です。

特に、1次コイル近傍は変圧器でありながら分布定数回路の特徴を持ちます。

どれくらいの波が反射して戻ってくるかの反射係数Γ は2次コイルを伝送線路として見たときの特性インピーダンス等により決定されます。

(つまり、2次コイルとトロイドの設計、アースの質によります。)

 

 

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2次コイルが共振するとは、1次コイル近傍に電磁誘導で誘導された電圧がトロイドという開放終端まで伝搬し、反射してもどってくる波を共振させることに他なりません。

トロイドでない側(2次コイル下方)は十分に共振に耐える電子供給源を接続する必要があります。つまり、良質なアースです。

 よって「テスラコイル=高周波変圧器」という話はほぼ否定されたものと言って良いでしょう。

最近は海外のテスラコイラーさんらがこの文献を参考にしてくれているようで、徐々にですが認識が改まりつつあるようです。

 

という事で、1次コイルと2次コイル近傍の変圧器動作による昇圧は大して2次コイルの昇圧動作に大したメリットを与えないことになります。

高周波伝送路の学問により明らかである上に、以前「1次コイル近傍だけを細いワイヤで巻いた2次コイル」を使用した実験でも実証を行いました。

つまり、テスラコイルにおいては1次コイルの巻き数を減らして昇圧比を大きくしようとする試みは大したメリットもないので無駄であるということです。

そればかりか、タンク回路を構成するために大きなコンデンサが必要になり、効率よく2次コイルにエネルギーを伝送することができません。

 

理想的な1次コイルとは

 では、以上の原理を踏まえて理想的な1次コイルがどんなものかを考えてみます。

分布定数回路において効率よく波を伝搬させるためには、伝送線路上を"均等に"励磁することが重要です。

さらに、できるかぎり結合係数 k を高くすることが必要です。

(空芯コイルではせいぜい0.3くらいのkが限界ですが…)

かといって、鉄心を入れるなどして結合係数を高くしすぎると、今度は2次側の自由振動を阻害する損失要因になるので、0.3程度が最大値だと思って調整するのが無難でしょう。

結論から言えば、最も効率よく昇圧可能なのは2次コイルと同じ高さの1次コイルを巻くことです。

この巻き方が一番漏れ磁束が少なく、空芯コイルにおいてより結合の高いものになります。

 

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ですが、この形状はテスラコイルにおいては大きな問題を生みます。

考えればわかることですが、2次コイルのアースされていない側、つまりトロイド側にはVSWRにより決まる高電圧が生じます。

放電が1次コイルに当たってしまうのです。これを「フラッシュオーバ」などと呼びます。

このフラッシュオーバが起きる2次コイルの出力電圧をフラッシュオーバー電圧と呼びます。

 

 以上のように、理想的には2次コイルと同じ高さの円筒コイル(ヘリカルコイル)を巻くことになりますが、フラッシュオーバが発生するのが問題ですから、結局2次コイルの上方に1次コイルを近づけるわけにはいきません。

 

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ヘリカルコイル

 

円筒1次コイルを2次コイルの下方のみに巻くという結論に行き着くと思いますが、テスラコイラーはさまざまな改良を加え、逆円錐形の1次コイル(コニカルコイル)をよく採用します。

これは、広い範囲をできるだけ励磁しながらも2次コイルの電位勾配に応じて1次コイルを物理的に離すような巻き方です。

これにより、ヘリカルコイルよりもフラッシュオーバ電圧を高くでき、より高電圧を達成できます。

 

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コニカルコイル

 

 コニカルコイルでもフラッシュオーバが起きてしまうようなラージサイズのテスラコイルでは、平巻きコイル(パンケーキコイル)が適しています。

単純にアルキメデスの螺旋の形をした1次コイルで、励磁するのは1次コイルの下方の一部のみです。

平巻きコイルではフラッシュオーバ電圧をコニカルコイルよりもさらに高くできる反面、2次コイルのほんの一部しか励磁しないため2次コイルに大きな物理的ストレスがかかります。

特に、背の高い2次コイルで平巻き1次コイルを採用すると、十分にエネルギーが伝達されないため主回路にも余計に大きな電流を流す必要が出てきてしまいます。

 

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パンケーキコイル

 

 背が低い2次コイルでは、広い範囲を励磁できかつフラッシュオーバ電圧を低くできるかまぼこコイル(セミサークルコイル)がオススメです。

線材が作り出す磁束の合成は、かまぼこコイルのわずか上あたりでピークをとるので、2次コイルとの距離を比較的近くできるというメリットがあります。

これはどうしてもQの関係で背を低くせざるを得ないQCWSSTCなどでよく使われる巻き方ですが、少々巻くのが大変というデメリットがあります。

 

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かまぼこコイル

 

よって、高いバス電圧・大きな2次コイルで放電長を稼ぐ場合は平巻きコイルを、それ以外はコニカルコイルが無難でしょう。

 

 先に述べた通り、1次コイルと2次コイルの変圧器としての動作は大して2次コイルの出力電圧増大にはさほど寄与しません。

よって、より効率よく大きな放電を達成するためには、1次コイルを多めに(サイズによるが、10~15turnほど)巻いて1次タンク回路の共振コンデンサ容量を小さくすることになります。

 

1次コイルの材料

 高周波電流では、導体の表面にしか電流が流れない「表皮効果」が起きるというのは有名な話だと思います。

周波数に依存する表皮深さまでしか電流が流れないという現象です。

 

1次コイルの材料として、表皮効果を優先して考えれば、より線(リッツ線)や銀メッキが施された角板が最適ですが、1次コイルの表面がなめらかでないと、今度は導体表面に生じるコロナ放電によるコロナ損が無視できなくなります。

さらに、フラッシュオーバ電圧を下げる原因にもなりかねません。

 

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表皮効果とコロナ損

 

ここで最適かつ安価なのは、やはり なまし銅管などの中空の銅管という結論になります。

銅の密材は曲げるのが大変ですからね…^^;

 

1次コイルの巻き数

 では1次コイルの巻き数はどのように決定すればよいのでしょうか。

実は、具体的に最適な巻き数を計算するのは非常に難しいです。

なぜなら、現実的に用意できる共振コンデンサの容量やブリッジ(主回路)の作り、SGTCかSSTCか、によっても最適解が変わるからです。

ただし、2次コイルを伝送線路として考えた場合では、エネルギーの伝達損失の観点からできるだけ1次共振コンデンサの容量を削減したいところですから、可能な限り多めに巻いておくことをオススメします。

サイズにもよる話ですが、大型なDRSSTCなどは5回も巻いていれば動作はしますが、1次電流を削減したいために15回くらいは欲しいところです。

 

まとめ

 以上のことから、1次コイルの設計においては

・表面が滑らかで電気抵抗が少ない材料を選ぶ

・2次コイルの広い部分を励磁できるように巻き方を選ぶ

・少なく巻きすぎない

 

あたりを気を付ければ良いことになります。

 

では。