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テスラコイル設計学 ~2次コイル

 こんにちは。

今回はテスラコイル設計学 第3課「2次コイルの設計法」についてです。

 

今のところ, 内容の順番については超なんとなくで決めてしまっているのですが, 今後どんなセクションで書こうかというものは決めているので書いておきます。

 

  • 第1課 1次コイルの設計法
  • 第2課 パワーデバイスの選定法
  • 第3課 2次コイルの設計法

予定↓

  • 主回路(パワーブリッジ)の設計法
  • 制御回路について
  • トロイド(Topload)の設計法
  • DRSSTCの位相補償について
  • 電圧ダブラ, PFCの設計法
  • アース, EMI対策について
  • フィードバック技法
  • ブレークアウトポイント(放電針)の設計法

 

うーん, 多い!!!!!

 

では, 本編はここから。

2次コイルとは

 2次コイル (Secondary Coil) は, テスラコイルのメインというべきコイルの部分です。

大体, 細い導体ワイヤーが非磁性体の空心管に多数巻かれた構造をしています。

2次コイルの役割は, 1次コイルから伝達された磁気エネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギー変換器, 電圧を大きく高める電圧倍増器です。

1次コイルが数回~数十回だけ巻かれているのに対し, 2次コイルは数百回~数千回とたくさん巻いてあるのが特徴です。

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2次コイル


 

 

2次コイルについての誤解

 しばしば, 2次コイルはトロイドによる静電容量と2次コイルのインダクタンスによる直列LC共振回路であり, 電気的性質は共振回路としてのみ考えよという説が説かれています。

しかし, これは大きな誤解であり, 実際にはもっと多くの考慮すべき物理的性質が存在します。

 

2次コイルは共振回路を構成すると同時に, 有損失の高周波伝送線路でもあります。

2次コイルが電圧を高める理由は, 単純に共振の電圧拡大作用によるものだけではないのです。

 

放電(ストリーマ)のインピーダンスの考慮

 テスラコイルを駆動する目的は, 大きくて迫力のある放電を観測することです。

ここで, 2次コイルを設計するには「放電」という現象が何なのかを理解し, 適切に巻いてやる必要があります。

 

ひとえに「放電」といっても, いくつかの種類があります。

テスラコイルで観測される種類の放電は, 温度がそれなりに高く持続時間が短い, 「火花放電」というものに属しています。

その中でも, 「電子なだれ」という現象がトリガーになる「ストリーマ理論」が強く影響する火花放電であり, これから海外テスラコイラーはテスラコイルの放電のことを「ストリーマ(Streamer)」などと呼びます。

CWSSTC (連続波半導体テスラコイル : Continuous Wave Solid State Tesla Coil) という,

無変調状態で動作させるテスラコイルの場合は, 温度がとても高く連続的に存在する「アーク放電」という種類の放電が支配的になります。

 

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火花放電の例

 

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アーク放電の例

2次コイルを設計するには, まずこの「放電」を「負荷」として見る目が必要になります。

そのため, ストリーマ放電を電気的な等価回路モデルとして考えることにします。

ストリーマ放電はその周囲の環境(ガスの種類, 気圧, 周囲のオブジェクトの影響)により非常に不規則な分岐やルートをとることが特徴なため, 正確に解析することは不可能ですが, 簡易的に考えればそれは単純にRL直列回路とみなすことができます。

 

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ストリーマ放電の等価回路

 

では, このRL直列回路に効率よく電力を伝達するには2次コイルがどうあるべきでしょうか。

まず一つ設計において大切なことは, "ストリーマ放電とのインピーダンス整合" をとることです。

つまり, 放電のインピーダンスと2次コイルのインピーダンスをマッチさせる必要があるという事です。

 

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ストリーマ放電と2次コイルシステムとのインピーダンス整合

 

ですが, 前述したとおり放電現象は不規則なため, 正確なインピーダンスを知る事はできません。

しかし, 常圧常温の環境でのストリーマ放電の電気的特性はおおむね再現性があり, そのインピーダンス実験的に計測され, また正規分布をとると確認されています。

その中央値は, 小サイズのテスラコイルが作り出せる放電のインピーダンスは約70kΩ, 卓上~大型テスラでは約50kΩ, 超大型テスラ(3m~級) では約30kΩとなっています。

放電が大きくなる(太くなる)ほど, つまり投入する電力によりインピーダンスが変化します。

 

つまり, 2次コイルの設計においては大体 2次コイル-トロイドシステムのインピーダンスが 50kΩ程度になるように設計すればよいという事になります。

これは, 単純にLC共振回路として2次コイルを考え, ただ電圧拡大作用を大きくする(=Q値を大きくする) だけでは良い放電が出せるテスラコイルにはならないという事を示しています。

 

ただしこれには例外があります。

QCWSSTC (疑似連続波半導体テスラコイル : Quasi Continuous Wave Solid State Teslacoil) の場合は, 長い時間をかけて2次コイルに電力を伝達する必要があるため, 高いQ値をとったほうがきれいな枝分かれの無い針状放電に有利な場合があります。

 

1次-2次結合係数

 結合係数 k とは, 2つのコイルが磁気的に結合する割合を表す値です。

一般的な低周波トランス, 高周波トランスなどコアを有するものは, 1次コイル-2次コイルの結合係数は1に近くなるように設計されています。(磁気漏れトランス Leakage Transformer は例外)

テスラコイルは空心コイルであり, 磁気エネルギーを蓄える要素, また磁路となるコアは存在しません。

よって, テスラコイルの一般的な結合係数は 0.1~0.3程度と低くなります。

 

 結合係数は, 1次回路から2次回路へのエネルギー伝達の効率を決定するため, 1次コイルの形状や1次-2次間の距離を変えて実験的に調整する必要があります。

 

結合係数が大きいと, 1次回路から2次回路へすばやくエネルギーが伝達し, 少ないインバータサイクルで(ON時間に関係), 短い時間で高いトロイド電圧を達成できますが, そのかわり1次回路に大きな電流が流す必要があったり, 電圧が急峻に上がることで2次コイルの各部で電圧ストレスが生じ, 余分な放電を起こす可能性が高まります。(放電の枝分かれ, 1次-2次間フラッシュオーバなど)

逆に結合係数が小さいと, エネルギー伝達速度はゆるやかになりますが, その分多くのインバータサイクルとON時間が必要になります。

 

また, 高すぎる結合ではQ値の上昇により共振調整がシビアになったり, 弱いアースでは2次コイルの電位勾配が乱れ, 1次コイル付近での放電や大きなEMI(電波障害)が生じる場合もあります。

これといってキッチリ結合係数の値を決めることも測ることも難しいので, これは実験的・経験的に決定するのが良いかと思われます。

 

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結合係数による2次システムの電圧上昇


 

 

2次コイルの寸法

 上記の原理などを踏まえ, 2次コイルがどんな形だと良いのか, という結論を述べます。

今回はSSTC, DRSSTCに向いているコイルの形状を示します。

(Kamomesanの公式では, 主に大型DRSSTCやQCWSSTCに向く設計値が算出されます。)

 

DRSSTCの場合はコイル長(高さ)の2倍以上の放電がかなり簡単に出てしまうため, 1次コイルへの落雷を防ぐという観点から, コイルの直径と高さの比率は 1:5~6 程度が良いかと思われます。

作りたいテスラコイルの規模を見積もり, コイルを巻く母材(塩ビ管など)の直径を決めてから上記比率になるようにカットするという手順が個人的に良いと思います。

 

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2次コイルの形状比率

 

2次コイルの寸法が決まったら, 十分な巻き数, 適切なインピーダンスになるようにワイヤー径を決定します。

これも経験則ですが, 卓上サイズのテスラコイルの場合はΦ0.2くらいのUEWを2000回程度巻いておけば間違いないと思います。

上記2次コイルの比率において, 大体1500~2000回くらい巻ける線材を選ぶのがコツです。

私の実験では, 直系110mmの2次コイルで高さを550mmにした場合, Φ0.26mmのワイヤでちょうど2000回ほど巻くと, 2次システムのインピーダンスが49kΩ程度になりました。(今までの経験で一番成功したコイルです)

2次コイルのインピーダンス計測, 無負荷Q値計測は特殊な装置が要るため, ここでは紹介しませんが, 以下のうまくいったデータを参考に設計してみてください。

 



コイル直径 ワイヤ径 巻き数 2次インピーダンス
40mm 0.1mm 1800回 57kΩ
110mm 0.26mm 2000回 49kΩ
200mm 0.5mm 2100回 55kΩ

 


2次コイルの母材

 2次コイルを巻くためのパイプには, 非磁性体でかつ高周波誘電正接(tan δ, タンジェント・デルタ)が小さく, ある程度の高温に耐える材料を選ぶ必要があります。

磁性材料を使用すると, 大きな損失になるため波の反射が起こりにくく高電圧が生じず, 高周波誘電正接が大きいと誘電体である母材での損失が大きくなります。

また, 耐えうる温度が低すぎると事故で2次コイル内部や1次-2次コイル間で放電した際に簡単に導電性の放電跡(カーボントラック)が生じ, 2次コイルは使用不可能になります。

 

簡単に, 入手が容易な材料の特性表を示します。

 

材料 誘電正接 @1MHz 使用温度(max)
ポリ塩化ビニル (PVC-U) 0.015 105℃
ポリプロピレン (PP) 0.0005 90℃
ポリアクリロニトリルブタジエン-スチレン (ABS) 0.019 105℃
ポリカーボネート (PC) 0.01 135℃

 

塩ビ管として知られるポリ塩化ビニルにはソフトとハードがあり, ハード材の方が誘電正接が小さくテスラコイルに向いています。

表中でもポリ塩化ビニルが最もコストパフォーマンスがよく, 入手性も良いのでよくテスラコイルの母材として使用されます。

また, パイプ表面積あたりの誘導損失は管の厚みが厚いほど大きくなるため, できるだけ肉薄なパイプを使うのが望ましいと言えます。

 

2次コイルを巻く際の注意点

 2次コイルを巻く際には, コイル巻き機などを自作して巻くとより簡単に巻くことができます。

しかし, ワイヤー径が細い場合では, 巻き機の巻取り張力に負けてワイヤーが切断するので注意が必要です。

巻き機が無い場合は, 手巻きで隙間なく巻いていくことになります。

2次コイル表面に強電界が生じないように, ワイヤーに折り目などがつかないようにきれいに巻く必要があります。

 

2次コイルの終端処理

 2次コイルは, 下部はアースに, 上部はトロイドに接続するために終端処理(エンドポイント)が必要になります。

ですが, ここでタブーとなるいくつかの処理があるので紹介します。

 

まず, 終端処理のためにパイプに穴をあけ, 内部にワイヤーをもってくるのは避けた方が良いです。

パイプの表面に穴をあけると, そこから沿面放電が開始し, パイプに導電性の放電跡(カーボントラック)を残します。

 

また, 終端処理に金属製のネジなどを用いるのも避けた方が良いです。

これは, 2次コイル内部に金属の物体を置くと, たとえそれが2次コイル最下部のアース付近だとしても, 2次コイル内部で放電が発生し, カーボントラックを残す恐れがあるからです。

 

適切な終端処理としては, テープ止めだけにするとか, パイプ上下に樹脂製のフタを設けてそこにワイヤーを通すとかいうことになります。

決して2次コイル内部にワイヤーを垂らしておくのはいけません, これも内部放電の原因になります。

終端処理の際はピーンとワイヤを張ることをオススメします。

 

また, 2次コイルの上下にはできるだけ母材の余白部分を残さないようにするべきです。

この余分なスペースがあると, ワイヤは2次コイルの磁束分布から外れ, そこを通過してトロイドorアースに接続されるワイヤからコロナ放電が生じます。

このコロナ放電は損失になったり, 不要なフラッシュオーバを生む原因になります。

 

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悪い2次コイルデザインの例

 

まとめ

 2次コイルを作るうえで重要なのは, 「LC共振回路であるゆえの特性」にとらわれすぎずに考えるという事です。

ここに書いたことは多くが現在広く知られる電気回路理論, プラズマ工学, RF伝送路工学, 経験則や, テスラコイラーの調査の結果にすぎません。

テスラコイルは実に奥深いテクノロジーがひそんでいますから, それ一つ一つをエンジニアリングしていくと面白いものです。

 

ではでは。