テスラコイル製作記 「mini DRSSTC」
こんにちは, かもめ(Hkat)です。
最近寒くなってきました。気付けばもう12月, 大学に編入してから1年が経とうとしています。
いやー、それにしても1年が過ぎるのが早い。
幼き頃は1年が地獄のように長く感じたのに、不思議なものです。(ジャネーの法則 で検索)
それはそうと, 今回の記事はテスラコイルの製作についてのまとめです。
ある程度調整がひと段落したので, 丁度区切りをつける形で。
まぁ, まだ課題はいっぱいなのですが^^;
テスラコイルを見ると, テスラコイルが作りたくなる病
昔はそれなりの台数のテスラコイルを作っていたのですが, 学生になってからは多忙を極めて製作のペースが激落ち君になっていました。
ただ, なぜかこのタイミングでテスラコイルの製作意欲が湧いてきました。
テスラコイル仲間の展示を見るなどして製作欲をチャージした結果, 今回のテスラコイルの製作を決断しました。
(本当はお金が無くなるから作りたくないんだよ…パーツ勝手に湧いてくれ)
ジャパニーズテスラコイラーのきょうすけ氏のテスラコイルの展示にお邪魔しました。
客なはずなのに結局運営みたいなことしてた(笑)
この機会で製作意欲をさらにチャージ。
動いてるテスラコイルみると作りたくなってきてしまうものなのです。
材料集め
とりあえずホムセンで材料集めから。
実は, トロイドをちゃんとしたのにしたいなぁと昔から思っていたのでヘラ絞りのなめらかなトロイドを買おうかと思っていたのですが, やっぱり高いのでやめました。
↓こうゆうの
ヘラ絞りトロイドを使う事で見た目は圧倒的に美しくなります。
ただしやっぱり高い…送料かかるので学生身分ではそうホイホイ買えるものではありませんでした…。
てなわけで代わりにホムセンで見つけたのがコレ。
どんぶりのフタ(笑)
多分, ホムセンからしたらドンブリのフタだけを2個買う変な客に見えたかもしれません。
これを2つ重ねると良いかんじにトロイドっぽくなります。
正確にはトーラス型ですらないのでトロイド, というよりは「容量球」の方が正しいかも。
ドンブリトロイドは1000円とちょっとで作れてしまいます。
ヘラ絞りトロイドは金銭的余裕が出てきたら後々買おうという結論に。
2次コイルを巻く母材には毎度のように塩ビパイプを選択。
これ, 100という規格で売っていたので勝手に VU100 だと思って買ったのですが, 帰宅後寸法を測ると微妙に違う…。
空気用配管は水道用塩ビ管とは規格が違うのか??あぁややこしい。
てなわけで VU100 より 5mm くらい径の小さいパイプになりました…。
制御回路あたりの製作
制御回路は特に難しいこともない, D-FFを使用したドライバです。
結果的に遠回りすることになってしまいましたが, 最近秋月電子で販売されたMicroChip社のゲートドライバICを使ってみたりしました。
これが大失敗でした。
このゲートドライバIC, GNDレベルの揺れに弱すぎてダメでした。
ちょっとしたノイズ(テスラコイルなんてノイズの塊ですが…)で出力がシャットダウンしてしまうのです。
上図のようにSOP8->DIP変換基板を使用した場合は無理やりパスコンを設置してやらないと満足に動きませんでした。
秋月変換基板のパターンを見るとめちゃくちゃ細いのがわかりますが, コイツのせいで電源インピーダンスが高くなり, 結果負荷が上昇するとGNDレベルが上がってしまうのです…。
普通に基板上にパスコンを実装した場合の波形。いやぁ, ダメダメです。
8割パルス抜けして使い物になりません。
公称値では9A出力可能ということになっていたから手を出してみたものの, この案はボツになりました。
結局いつも通りIRのゲートドライバICに頼ることに。
今回はIR4427を使用し, デュアルチャネルMOSFET ICでプッシュプル回路を構成してGDT (Gate Drive Transformer) を駆動することに。
出力波形は理想的なものになりました。やっぱり安定が一番。
制御回路はノイズ対策のために金属ケースに入れます。
金属ケースは強力なGNDを接続しておきます。
こうすることで, 基板が電磁ノイズに曝され暴走することなく動作することが期待できます。
本当は以前設計したFPGA DRSSTCコントローラを使おうと思っていたのですが, 一点物のために発注するのも気が引けたので今回はユニバーサルで。
これもお金がたまったら発注版に変える予定。
メインブリッジ, 1次回路
あらかじめKamomesanの公式を用いて見積もっておいた共振周波数をもとに. 使用する共振コンデンサを選定しました。
今回は, 共振周波数 350kHz あたりの設計で, CDE社の高エネルギーパルス用のフィルムコンデンサ DC2000V 0.047μF をチョイス。
思ったより小さい。
スペック上はあまりRMS電流を流せない(100A以下)のでMMCの設計に注意が必要かも。
主回路(フルブリッジ)の部分です。
スイッチは CM75DY-12H というIGBTモジュールです。
秋葉原 日米商事さんにて購入したものを知り合いから譲り受けました。
(日米商事さん, 閉店のうわさが流れてますね…無くなると今後の工作が不安です…)
定格は600V ピーク 150A のブリッジになりましたが, ソフトスイッチングになるように調整すれば多分 500A くらいまでいけます。
いや, 部屋きったな
実質2畳ちょっとの部屋で電子工作をしているとこうなるのも仕方ない…うん…。
土台がいきなりできていますが, アクリル製の箱をアルミアングル材で4角を補強し, 電磁遮蔽用のアルミパンチプレートを付けています。
ワンターンコイルが形成され1次コイルからの誘導が損失にならないよう, 1面だけアルミパンチプレートを抜いています。
とりあえず, 1次回路をLC共振回路にせずにSSTC動作をさせてみました。
共振周波数も設計通りぴったり350kHz です。
ちゃんと設計したおかげでSSTC動作でもそれなりに放電が伸びています。
次に, 1次共振コンデンサを接続しDRSSTC動作で調整を行いました。
1次回路の調整で大切なのは, ソフトスイッチングをねらうことです。
こうすることで, データシート以上の動作が期待できたり, スイッチング損失を軽減して壊れにくくすることができます。
ソフトスイッチングの調整はフィードバック回路に追加する進み位相補償回路(Lead-phase compensator)の定数をいじることで行います。
下図は調整不足のハードスイッチング気味の波形。
黄色のプロットがCTより計測した電流波形, ピンクのプロットがブリッジ出力電圧波形です。
ブリッジ出力に高いスパイクノイズが重畳しているのが見えます。
これがハードスイッチング状態でIGBTを焼く原因です。
進み位相補償の手法はオペアンプを利用したりいろいろありますが, 今回は無難にRL直列回路を利用した位相補償器を作りました。
回路図は以下のよう。
高巻数比の高周波トランスをインピーダンス調整器として利用し, RL回路のカットオフ周波数を調整します。
今回はRに3Wの33Ω抵抗を使用しました。(かなり電流が流れるので1/4Wとかだと焼けます。)
インピーダンス調整トランスを巻くのは大変ですが, マイナスドライバで調整するタイプの可変インダクタを利用する場合よりも広いレンジでの調整が可能です。
進み位相補償器により位相調整を行うと, 上図のようにきれいなソフトスイッチング動作になります。
ハードスイッチング動作時に比べてスパイク電圧が低くなっているのが見て取れます。
最近思ったことですが, 日本人テスラコイラーはここらへんの調整をすっ飛ばしてるのではないか?という気がしてきました。
あんまりこの辺りの話を聞きません。
意識しないと絶対にソフトスイッチングが狙えない部分なので…。スグコワレチャウヨ。
だーれも調整してなさそうなので、絶対にすることをオススメします。
1次コイル
上記のソフトスイッチングの調整は被覆ケーブルの簡易コイルを使っていましたが, さすがに2次共振周波数の調整がダルいのでなまし銅管で作り直しました。
まず, なまし銅管を適当にパンケーキコイル状に仮整形します。
ここの整形によって, 出来が大きく変わるので頑張って調整しました。
ステーはt=10mmの透明アクリル材を使用しました。はざいやさんで発注。2カットまで無料なのはうれしい。
ステーへの穴あけ作業は数が多い分, 根気のいる作業です。
けがの無いように適度に休憩をはさみつつ加工しました。
ステーは位置によって穴をあける位置をズラす必要があります。
(ターン間距離 / ステー数)*(ステー番号-1) だけ穴位置を外側にオフセットします。
こうしないと, 場所によってステーが飛び出して, 全ステー外形が正円にならず, いびつな形になってしまいます。
使用するなまし銅管が Φ=6.35mm なので, 余裕をもって 8mm の穴をあけます。
アクリルは変に加工するとすぐに割れてしまうので, 初めに3.5mmの下穴をあけてから8mmの穴をあけます。
合計128回, 慎重に穴あけ加工… ヒエー^^;
このステーを仮整形した1次コイルにセットしていきます。
ステーを土台に固定してからなまし銅管を入れていくと, 摩擦力で全然入っていかなくなり地獄なので, このやりかたの方が好みです。
こうするとステーもスルスル入るので, 時間もかかりません。(手にマメもできないしおすすめ)
ただし, 仮整形の段階で失敗していると出来上がりがおかしくなります。
よくあるのは, 内径が小さすぎて2次コイルが入らなくなるとか(笑)
完成した1次コイル。
きれいなパワミコイルはやっぱりいいですねぇ~。これだけで飯食える。
最終的に, ステー底面にタップを切り, 土台にねじ止めします。
調整, 動作
放電が伸びるように1次コイルのタップ位置を調整します。
調整のコツとしては, 1次共振周波数を2次共振周波数の少し低いくらいに調整することです。
理由は, 2次コイルの放電が伸びることによる共振周波数の低下と, 1次共振回路の2次インピーダンス低下により起こる相互インダクタンス低下による共振周波数の上昇をうまく利用するためです。
2次コイルは放電が伸びていくにつれ共振周波数が低くなっていきます。
放電は等価的にトロイドとアースをつなぐRL直並列回路として見ることができるからです。
逆に, 1次コイルは2次コイルの放電が伸びる=電流が流れるにつれ相互インダクタンスが減少していくために, 共振周波数は上昇します。
これにより, 1次共振回路の共振周波数を2次共振周波数よりわずかに低くしておくことで, それぞれの共振周波数が放電長により接近していき, 徐々に共振周波数がマッチしていくことでより長い放電を期待できます。
ということで, 調整した状態でDRSSTC動作をさせたものが↓。
とりあえず入力電圧80V AC程度でコイル長を超えた放電は達成しました。
1次コイル付近まで放電が到達しています。
あとは, 広い場所で動かして土台より下に落雷できるかどうか, ですが, 正直このmini DRSSTCはそこまでの放電長は求めてないので、これで完成で良い気もしています。
(そもそも地面に放電を落とせるほど広い場所が無い…)
現状では, 1次コイルへの落雷を防ぐストライクリングも付いていないので, 1次コイル付近に針を置いています。
ストライクリングの設置も今後の課題です。
いい感じやね pic.twitter.com/eUcGptpKAP
— 藤原かもめ🐦 Hkat (@igbtbreaker) December 15, 2020
もうちょっと改良は入ると思います。
ではでは。